【映画レビュー】「タクシー運転手」光州事件を知っていますか?
知ってるようで知らない現代韓国事情
1980年実際の事件を映画化した衝撃の作品。
「タクシー運転手」は戒厳令により伏せられた光州事件を知らないタクシードライバーが取材に行くドイツ人ジャーナリストを光州へ送り届ける作品である。
そのタクシードライバーが主役となっている。
今までも日本といろいろあり、今でも外交はぎくしゃくしているが切っても切れない隣国である。
その隣国について私たちはあまりにも知らなさすぎるのではないだろうか。
「いや、知っている」という方もいると思うが、少々おつきあい願いたい。
韓国は今でこそ日本を追い越す勢いの経済だが、民主化されたのはつい最近である。
この作品の舞台である1980年は民主化運動が高まった年である。
それまでどのような社会情勢だったのか、先ず見ていこう。
現代韓国年譜
民主化運動の盛り上がりが何度も繰り返され弾圧され続けた歴史を持つ韓国。
どのような動きを見せていたのか、まとめてみた。
- 1945年8月、太平洋戦争終結=日本からの解放
- 1945年9月、米ソによる挑戦分割占領政策
- 1948年8月、大韓民国独立(李承晩(イスンマン)軍事政権)
- 1950年6月、朝鮮戦争(~53年休戦協定)
- 1960年4月、民主化と南北統一を求める革命(四月革命)により李承晩失脚
- 1960年6月、朴正煕(パクチョンヒ)軍部クーデターを起こし政権掌握
- 1963年12月、朴正煕大統領に就任。軍政から民政に移行(国内的には強権的体制を維持)
- 1972年7月、南北共同声明(南北統一の原則を定めた)ここから民主化の動きが強まる
- 1972年10月、非常戒厳令公布(十月維新)強権支配を強化する「維新体制」発足
- 1973年、民主化運動の旗手金大中(キムデジュン)日本から拉致される
- 1979年10月、朴正煕大統領暗殺
- 1980年5月、光州事件(全斗煥(チョンドホァン)が保安司令官と中央情報部長代理を兼任して権力を握り、光州民主化運動の鎮圧)
- 1980年10年、全斗煥大統領就任
- 1988年2月、盧泰愚(ノテウ)大統領就任、民主化を掲げる(実質は全斗煥の後継者)この頃から徐々に民主化の動きを押さえきれなくなっていく
- 1988年9月、ソウルオリンピック開催
- 1993年2月、金泳三(キムヨンサム)大統領就任
- 1997年8月、金大中(キムデジュン)大統領就任(初の与野党交代)
よく見ると光州事件が起きたのは朴正煕が暗殺され、全斗煥が大統領になるまでの空白の一年に起きた出来事なのである。
光州事件とは
1979年10月に朴正煕が暗殺されると、政治的自由と南北統一を求める運動が高揚した。変革をおそれる軍部が戒厳令をしき、民主化を厳禁。
1980年、戒厳令と金大中拘束に抗議して学生デモが起き、警察・軍と衝突した。特殊部隊の過剰な弾圧に反対した学生・市民は武装して抵抗した。
警察・軍はその光州の学生・市民多数を虐殺した。
この事件は広く世界に知られるところとなり、衝撃が走った。
この事件が映画化されたのだから、韓国では大変話題になった。
つい最近の政権による虐殺事件である。
興味・関心がないはずがない。
しかし、まだ関係者も生存している。
よく映画化したと感心する。
我が国ではこのようなことが忖度によりはばかられてはいないだろうか。
深みのある役者 ソン・ガンホ
ソン・ガンホは本当にいい役者だ。
心情の移り変わりをここまで克明に表情に表せる役者は、日本にはそういないのではないだろうか。
ひとりタクシーを運転しながら逡巡するシーンでの表情は見ていて引き込まれる。
今回、カンヌでグランプリ作品となったポン・ジュノ監督の「パラサイト」にも出演している。
参考
木下康彦 木村靖二 吉田寅編『改訂版詳説世界史研究』山川出版社
岡崎勝世 鈴木菫 並木頼寿監修『パワーアップ新世界史資料』帝国書院