【映画レビュー】「グリーン ブック」Green Book
差別は一足飛びにはなくならない
リンカーン大統領がアメリカの黒人解放をしたことはよく知られている。
しかし、黒人奴隷がいた時代から、一気に差別撤廃になったわけではない。
1960年代にケネディ大統領が、黒人の公民権運動を受けて、公民権法を制定したあとも、現在に至るまで差別は存在し続けてきている。
その1962年が物語の舞台である。
主役はピアニストである。
地方公演に回るためにドライバー・マネージャー等の仕事をしてくれる人を探している。
もうひとりの主役は、いわゆる何でもできる奴で、普段はホールの用心棒として働いている。
ホールが改装になって仕事にあぶれてしまっている。
ピアニストは黒人であり、ドライバーになる用心棒はイタリア系の白人である。
このふたりが様々な差別にそれぞれのやり方で対応していくさまが描かれている。
差別されるのは黒人だけではない
この映画では様々な形の差別がちりばめられている。
黒人に対する差別はもちろんよく知られている。
しかし、注目すべきは白人内での差別、階級化である。
イタリア系、スペイン系、ロシア系などに対する差別もあるのだ。
有吉佐和子の『非色』に詳しいが、一概に白人、黒人、有色人種という分け方ではないのだ。
私は差別は「自分を優位に立たせたい」という意識から始まると見ているが、それが高じて、しまいには生理的な嫌悪感までを生む。
これに立ち向かうピアニストは非常に知性的で教養高いが孤独である。
絶対に暴力をふるったり、暴言を吐いたりしないことで差別と闘っている。
一方、イタリア系の用心棒は、黒人に差別意識をもち、逆に白人警官から差別されることで微妙な立場にいる。
はじめは黒人差別意識を持っていた彼が、ピアニストの彼と一緒に過ごすうちに仲間から黒人をニガーと呼ばれることに腹を立てるようになる。
彼らの変化が実に素敵なのである。
グリーンブック
黒人差別の激しいアメリカ南部では『グリーンブック』という黒人旅行者用のガイドブックがあると、旅の始めに渡される。
そこには黒人専用のホテルなどが記されている。
ピアニストは黒人であるが、ピアニストであり、北部出身である。
南部の黒人達とはうまく折り合えなかった。
その彼が最後に孤独なピアニストから楽しそうなピアノ弾きに変わるシーンが、胸に迫る。
本来ならどこでもこのような楽しいピアノを弾けるだろうに、と思うと差別のある社会が憎らしく思えてくるのである。
ラストは明かさずにおくが、アカデミー賞作品賞にふさわしいと言える作品だった。
ちょっと笑えたこと
実はドライバーのほうは『ロード・オブ・ザ・リング』の王、アラゴルンである。
何か似てると子どもが気づき、エンドクレッジットで確認したところやはりその通りであった。
その瞬間、感動の涙は爆笑の涙と混ざって、大爆発した。
『ロード・オブ・ザ・リング』のアラゴルンファンである私と子どもは「下ネタを言うアラゴルンってどうなのよ…」と言いつつも、この作品も『ロード・オブ・ザ・リング』も繰り返し見ることになりそうな予感がしている。