アメリカの教育のゆがみに見る日本の教育への疑問
新自由主義を取り入れたアメリカはどうなったのか
アメリカでも新自由主義によって教育がめちゃくちゃになっている。
2005年のハリケーンカトリーナで打撃を受けたニューオーリンズ市ではバウチャー制が導入された。*1
バウチャー制とはバウチャー(利用券)を使って、私立学校へ通えるようにする制度だ。バウチャーを手に入れられない低所得者はチャータースクールという、民間企業が出資する学校へ通うことになる。
私立学校とチャータースクールの差は大きい。
私立学校は潤沢な財産を持つ両親が選んで通わせる学校である。
チャータースクールへ出資するような金持ちの家の子どもは芸術など情操教育に力を入れたり、シュタイナー教育を取り入れたりする学校へ行くという。*2
教育格差は非常に大きい。
チャータースクールでは何が行われているのか
チャータースクールは民間が出資して作っている学校である。
正確に言うとチャータースクールへの融資をすることで、企業は税控除が受けられる。さらに雇用促進など他の租税優遇制を受けることで、7年後には最初に融資した資金の2倍の金額が地方の政府から返還されるという。*3
このような民間の教育を市場とするようになったのには統一の学力調査の存在がある。
アメリカでは州によって教育制度が違っているのだが、州ごとに統一テストがある。
このテストで良い点を取ることがチャータースクールの目的になっている。
教員はこのテストで良い点を取らせるようにしないと学校の存続自体にかかわるため、テスト対策にフォーカスせざるを得なくなった。
そのために、子どもたちは一日中コンピューターに向かい、モニター相手にテストに向けた「学習」をする。
このような「教育」だから、正規の教員は必要が無い。
非正規の5週間のトレーニングで臨時免許を受けられる即席教員で十分だ。
統一テストへの過当競争
アメリカではピアソン社などが統一テストの業者として、暗躍している。
教育市場は巨大だ。
テスト、教材、データシステムなど、テストを行うだけで自動的に需要は喚起される。チャータースクールでは効率的にこれを行うことが求められる。
そこで個別学習形式がとられ、モニターに一日中向かって問題を解いたり、体育や芸術といった、テストには関係しない授業を削減されたりする。
また、過剰な宿題なども問題となっている。
社畜を作る日本
日本でも同様なことが起こりつつある。
私達はテストに向かうとき、4択の問題があればその答えの中から1つを選ぶことを疑わずに行っている。
それは異常なことだということに気がついているだろうか。
社会に出たら、自分で一から答えを作ることの方が普通ではないだろうか。
それとも嫌な言葉であるが「社畜」として上司に言われたことを素直にこなしていく存在になるのだろうか。
学力テストに慣らされた私達は上からの指令に疑問を持つことが難しいこともある。
そうしたとき、いかにそのような状況にならされてきたか、ということを振りかえらなけらばならない。
学校がそのような「人材」を育成してはならない。
学校教育は「人材育成」が目的なのではなく、「人格の完成」が目的だからである。
社会に都合の良い人材を作る必要はないのである。
日本の教育政策への不審
政府は「真にグローバルな人材の育成」をせよと教育界に迫っている。
しかし本当にこの方向性で良いのだろうか。
子どもたちの住む世界は確かにグローバル化し、多様な価値観、多様な人たちと一緒に活動することは増えていくのだろう。
しかし、それは今ある社会への順応であり、自ら社会を作り出していく力となるのか。
さかんにいわれている英語に関しても、日本とつながりのある外国人はこれからは特にアジア、東南アジア等が多く、英語ネイティブはむしろ少ない。
そんな中で民間のテストを体制も整わないままで、4技能を図るためと称して導入することには違和感しか持たない。
学力テストの悉皆式による莫大な市場の出現、大学入試への民間テストの活用など、
PISA型学力の追求による、教材開発もある。
今回の大学入試改革も同様の方向へ向かっている。
そして、そのテスト形式の教科と、受験生の練習のために、受験生やプレ受験生はたくさんの模試を受けさせられる。
そのお金はどこへ流れていくのか。教育産業である。
そのテストの点を上げることが本当に子どもたちの幸せになるのか疑問である。
PISAの点数を上げることに意味はない。
独自の幸せを追求できる社会のあり方を考え、そのために必要な力を伸ばしてあげることが子どもたちの真の幸せな将来につながるのではないだろうか。
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